令和6(2024)年財政検証結果

公的年金の財政検証の考え方

公的年金制度は、平成16(2004)年改正により、年金財政の長期的な持続可能性を図る仕組みを構築しました。しかし、長期の社会経済情勢は変動する可能性があるため、「公的年金の長期にわたる財政の健全性を定期的にチェック」(財政検証)することにより、制度の持続可能性を担保しています。

前回の財政検証は令和元(2019)年に実施(令和元(2019)年8月に結果公表)しており、5年後となる令和6(2024)年に財政検証を実施(令和6(2024)年7月に結果公表)しました。

※1 長期:おおむね100年間

※2 健全性:平成16(2004)年改正により導入された財政フレームが機能して、給付と負担の均衡が図られること

※3 定期的:少なくとも5年に1度

財政検証においては、(1)長期的な給付と負担の均衡が確保されるか、(2)均衡が確保される給付水準はどの程度になるか、という2つの点について、我が国の経済社会の変化に関する一定の合理的な前提を設定した上で検証しています。

公的年金財政の長期的な均衡イメージ

令和6(2024)年財政検証の諸前提

令和6(2024)年財政検証に当たっては、次のようなデータ等を前提としました。

■人口の前提― 「日本の将来推計人口」
(令和5(2023)年4月、国立社会保障・人口問題研究所)

【低位・中位・高位の3つのケースを設定】

■労働力の前提―「労働力需給推計」
(令和6(2024)年3月、(独)労働政策研究・研修機構)

【経済成長と労働参加が進展する・一定程度進む・現状維持の3つのケースを設定】

■経済の前提―「年金財政における経済前提に関する専門委員会」

【2033年度までの足下の前提】
内閣府の「中長期の経済財政に関する試算(令和6(2024)年1月22日)」の「成長実現ケース」、「参考ケース」、「ベースラインケース」に準拠して設定。

【2034年度以降の長期の前提】
令和6(2024)年4月2日の経済財政諮問会議において示された内閣府試算も踏まえ、足下の前提との接続を考慮しつつ、長期的な経済状況を見通す上で重要な全要素生産性(TFP)上昇率を軸とした、幅の広い複数ケース(4ケース)を設定。

その他の制度の状況等に関する前提(有遺族率、障害年金発生率、納付率等)
→被保険者、年金受給者等の実績データ等を基礎として設定

※ただし、国民年金保険料の納付率については、「日本年金機構中期計画(第4期)」を参考にして設定した納付率の前提(2026年度に最終納付率85%)を基に設定。

(参考)経済前提の設定について

・透明性を確保するため、経済金融の専門家による専門委員会を設け、公開の場における約1年半、9回にわたる議論(2022年11月~2024年4月)を経て設定

・2033年度までは、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(令和6(2024)年1月22日)に準拠

・長期(2034年度以降)の経済前提は、マクロ経済に関する試算(コブ・ダグラス型生産関数を用いた長期的な経済成長率等の推計)に基づいて設定

<長期の経済前提の設定イメージ>

所得代替率の将来見通し(概略)

マクロ経済スライドと所得代替率の関係

人口の前提が変化した場合の影響

オプション試算の実施

令和6(2024)年財政検証では、前回(2019年)、前々回(2014年)の財政検証に引き続き、制度改正の議論に資するために、社会保障審議会年金部会での議論等を踏まえて一定の制度改正を仮定したオプション試算を実施しました。

オプション試算の内容

1.被用者保険の更なる適用拡大

次の4通りの適用拡大を行った場合について、マクロ経済スライドによる調整期間や調整終了後の給付水準の試算を行うとともに、将来の被保険者数の構成や世代別にみた現役時代の適用状況別の平均年金加入期間の見通しも試算

① 被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所の非適用業種の解消を行う場合(約90万人拡大)

所定労働時間が週20時間以上の短時間労働者の中で、月8.8万円以上の収入のある者全体に適用拡大し、さらに5人以上の個人事業者は業種によらず、適用事業所とする場合。

・月収8.8万円未満の被用者、学生、非適用事業所の被用者については対象外

・2027年10月に更なる適用拡大を実施するものと仮定

② ①に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引き上げにより同等の効果が得られる場合(約200万人拡大)

所定労働時間が週20時間以上の短時間労働者全体に適用拡大し、さらに5人以上の個人事業者は業種によらず、適用事業所とする場合。

・学生、非適用事業所の被用者については対象外

・2027年10月に更なる適用拡大を実施するものと仮定

③ ②に加え、5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合(約270万人)

所定労働時間が週20時間以上の短時間労働者全体に適用拡大し、さらに業種・規模によらず、個人事業所についても適用事業所とする場合

・学生については対象外

・2027年10月に更なる適用拡大を実施するものと仮定

④ 所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用する場合(約860万人拡大)

所定労働時間が週20時間以上の短時間労働者全体に適用拡大し、さらに業種・規模によらず、個人事業所についても適用事業所とする場合

・雇用者の中で所定労働時間が週10時間未満の者のみ対象外

・2027年10月に更なる適用拡大を実施するものと仮定

2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額

基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合

3.マクロ経済スライドの調整期間の一致

基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)に係るマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合

4.在職老齢年金制度

就労し、一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、当該老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組み(在職老齢年金)の見直しを行った場合

5.標準報酬月額の上限

厚生年金の標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しを行った場合

・参考試算 マクロ経済スライド調整の仕組み

オプション試算結果

1. 被用者保険の更なる適用拡大

2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額

3.マクロ経済スライドの調整期間の一致

オプション1.~3.の組み合わせ試算

これまで説明した1.~3.のオプション試算について、複数のオプションを組み合わせた場合の試算も実施。

「1.被用者保険の更なる適用拡大」と「2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額」の組み合わせ試算

「1.被用者保険の更なる適用拡大」と「3.マクロ経済スライドの一致」の組み合わせ試算

「2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額」と「3.マクロ経済スライドの一致」の組み合わせ試算

「1.被用者保険の更なる適用拡大」と「2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額」と「3.マクロ経済スライドの一致」の組み合わせ試算

4.在職老齢年金制度

5.標準報酬月額の上限

・参考試算 マクロ経済スライド調整の仕組み

参考試算における経済前提については、経済変動を仮定している。(物価上昇率賃金上昇率が2028年度から2057年度まで10年周期で機械的に変動させて試算。変動幅を物価上昇率±1.1%、名目賃金上昇率±2.9%と設定。)

年金額の分布推計の実施

令和6(2024)年財政検証では、モデル年金の年金額や所得代替率の将来見通しに加え、各世代の65歳時点における老齢年金の平均額や分布の将来見通し(年金額の分布推計)を作成。(令和6(2024)年財政検証において初めて実施。)

年金額の分布推計の結果

<現役時代の経歴累型及び厚生年金被保険者期間分布の変化>

若い世代ほど労働参加の進展により厚生年金の被保険者期間が延伸し、厚生年金被保険者期間が20年以上の者(厚生年金期間が中心の者)の割合が増加。

<老齢年金の年金月額分布の変化>

労働参加の進展による厚生年金の被保険者期間の延伸と実質賃金の上昇により、若い世代ほど平均年金額(実質)は増加し、低年金は減少する見通し。特に、女性の平均年金額(実質)の伸びや低年金の減少は大きい。